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太平洋を取り巻く国々と私

第18回 ニュージーランドから学んだこと

アジア成長研究所
客員主席研究員 小松正之
2015年5月25日
旧植民地の制度が残る国が大改革

ニュージーランド政府は1980年代まで旧植民地の体質が色濃く残り制度も英連邦に依存する体制であった。そのため、政府も死に体になった産業にも補助金を投下してそれを支えた。羊毛産業などがそれである。食料産業も国内に食料を供給するために補助金を使い、国際競争力を失っていた。そこで、補助金を撤廃するなど抜本的な改革に乗り出した、その結果木材産業や乳製品産業が輸出を大きく伸ばした。改革に本格的なきっかけを与えたのは1970年代の後半から1980年代の前半に首相を務めたマルドーン氏であった。彼は、経済政策や労働政策に補助金や賃金の凍結など政府の介入を多用して財政を悪化させた。政権は国民の不人気に会い1984年に政権を退く。その後3代続いた労働党政権がランゲ、パルマ―とモア首相と続き改革を進めた。更にはその後の国民党のボルジャー首相も改革を続行した。この分野には漁業の分野も含まれる。沿岸漁業は過剰な漁獲で衰退していた。


1986年から漁業の改革

1986年漁業法を制定し、ITQの導入をQMS(漁獲管理制度)として開始した。これは6海域を設定し漁業者にITQを配分し管理するものである。沿岸域では、パートタイムの漁業者と漁船を所有しない漁業従事者は除外された。沖合域では漁獲の能力と加工能力によってITQが配分された。

外国漁船を用船してでもニュージーランド企業がQMSに積極的に参加した。当時、漁獲枠は数量で与えられたが後に比率に変更された。

ITQの対象は約100種であり、EEZ内での主要魚種は38種である。

マオリはワイタンギ条約で特別の権利を認められており、1992年以降TACC(総商業漁獲可能量)の20%の漁獲枠がマオリに割り当てられる。しかし、そのITQは他のマオリにしか販売できないがACE(Annual Catch Entitlement;年間の漁獲枠)は誰にでも譲渡が可能である。

第一次産業省がTACとTACCを設定する。TACCはTACからリクリエションと慣習的漁獲を引いたものである。


ITQは成功 小型漁業会社の再編

2014年6月8〜9日にニュージーランド政府第1次産業省と水産物振興協議会を訪ねた。2009年700キロの東方海上にあるチャタム島を訪ねて以来だった。

ITQ(個別譲渡性漁獲割当制度)は成功した。ITQの販売やACE(Annual Catch Entitlement)の譲渡の特段の問題がなく運用されており。制度が定着している。しかし、ますます、小型漁船の淘汰が進んで、中堅層から小型の層が少なくなる再編が進んでいる。マオリも自らITQを使用して漁業を操業するのではなく、シーロードの親会社であるAotearoa社や他漁業会社にリースしている。唯一、Northern Deep sea社が漁業を営んでいる。

主要38種のTACは38万トンでは漸増しているのもの漁獲量は28万トンで微減。輸出金額は約6.5億ドル(数字はいずれも2011年)で伸びている。漁獲量より、品質と金額にこだわる。そのことは漁業者も認識している。タリー水産会社の船長は“「ホキ」の漁獲のためのトロール漁業では一回の曳網時間5分で30トンの「ホキ」が漁獲される。ITQなので他の漁船に捕獲される心配もなく、鮮度維持のために漁場からすぐ加工場のある港に寄港する”と語る。


大手会社も伸びが停止

一方、サンフォード、シーロードやタリー水産など上位4社の水産会社もITQの保有の上限が設定され、現在以上の漁獲枠の集積ができずに、成長が止まって、他に投資の機会を求めるにも、国内にはない。QMS制度で国内の資源と漁業は安定したが、成長の可能性が止まった産業となり、見通しが立たない。小規模漁業者は年間漁獲枠のACE融通を受ける価格が高騰しており、漁獲物は陸上の加工場に安く販売する。加工場が高く販売するので、漁業は一種の「隷属産業」なっている。高付加価値をつけるか未利用の資源に手を広げるかが重要で、新分野に挑戦する必要が高まっている。


首都ウェリントン市の夜景

タリー水産会社の船長(左)と歓談する筆者(中央) 提供;山本徹氏


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