火災保険 自動車保険 傷害保険 農林水産省の皆様へ 茨城県庁の皆様へ 法人のお客様 お問い合わせ

日本人とは何か

第108回 米スミソニアン環境研究所と自然の再生

一般社団法人生態系総合研究所
代表理事 小松正之
2022年12月28日

米スミソニアン環境研究所の訪問

ワシントンDCにあるスミソニアン博物館で有名なスミソニアン協会(Smithsonian Institution)は世界で最も大きな博物館、教育、調査研究の複合体で21の博物館と1つの動物園を有する。1846年に英国人のJames Smithsonian氏の遺産を基に、知識の集積と普及のために設立された。

スミソニアン環境研究所(SERC)は、ワシントンDCから東に60キロのチェサピーク湾に面したエッジウォーター市に位置する環境調査研究の世界的に有名な研究所である。私は、2015年5月19日に初めてSERCを訪問した。常勤スタッフは140名で研究者は90名(2017年当時)である。研究所の敷地は2,675エーカー(約1,300ヘクタール)もあって、各種の研究がなされる。


自然力活用の水辺再生(NBS;Nature Based Solution)

11月30日、スミソニアン環境研究所と一般社団法人生態系総合研究所小松正之代表理事との間でNBSに関する会合を持った。

ハインズ所長は2017年5月に日本を訪問したと切り出した。彼は陸前高田市と大船渡市を訪問し、津波被害を受けた被災地の復興を視察した。

最近のスミソニアン環境研究所の研究は、沿岸域の修復、汚染水の浄化と水源流の保護などがある。小川の自然流を造る事業を敷地内で実施している。

チェサピーク湾には385か所の分水嶺が存在する。森林と河川の再生、樹木が大切な役割を果たす。生物多様性が重要。農業からの排出規制が大切である。チェサピーク湾の浄化にはカキが主要な役割を果たす。また、海岸は垂直護岸ではなく、石積みよりは砂浜、緩やかな傾斜地にし、バクテリアと微生物が多い生きた沿岸にして植物が生えることも重要である。大農業地帯のペンシルベニア州の農業排水とダムの問題があると語った。


NBSに関する日米協力

陸前高田市と大船渡市を3度訪問したデニス・ウィグハム博士は、スミソニアン環境研究所との関係が2017年のハインズ所長から始まったと語った。2019年にウィグハム博士が初めて陸前高田市と大船渡市を訪問し、その後2020年には実際のNBSの工事を請け負うアンダーウッド社を引き連れて来日し、2022年6月に再度日本を訪問した。今回は、さらにメリーランド州の役人Cohee氏を同行した。

ウィグハム博士は「小松さんは、日本におけるNBSの強力な推進者で、今回も日本国内での政府高官と政治家との会合を設定し、国際シンポジウム開催並びに現場の視察などを行った。」と述べた。

東京都立大学の横山勝英教授が気仙沼市舞根湾での堤防を破壊し湿地帯と連結したが、それは日本におけるNBSの例である。

アンダーウッド社はメリーランド州のアナポリス市の郊外に本部を置き、民間の生態系回復の事業を設計し施行する会社である。同社は再生河川流の技術と生きた沿岸線の回復技術の先駆者でもある。

自然力を活用した建設物は、コンクリートの工作物と異なり永続し壊れない、ダイナミックなバランスを造り上げる。

同社は、古川沼と高田平野の分水嶺の回復を念頭に置いて河川域と沿岸域のそれぞれのRSC(水流を緩やかにし地下に浸透させ水を浄化する方法)とDynamic Shoreline(生きた水辺)の修復計画を提示した。

Underwood社の河川域水流の修復と沿岸の砂石浜の修復の技術も最近の同社と米国内での10年間の経験と改良で、年々向上している。本年8月に完成したサスケハナ川の河口に位置するCity of Have de Graceの生きた海岸計画実施後を視察した。



サスケハナ川の河口の位置するHavre de Grace市の2022年8月に完成したLiving Shoreline;生きた海岸線
2022年12月2日著者撮影


斎藤国土交通大臣がNBSに賛同

小松は14日、国土交通省の斉藤鉄夫大臣に河川や護岸などの防災工事で、欧米が導入している自然の力を生かしたNBSを取り入れるよう要望。環境大臣の経験もある斉藤大臣は「基本的な考えは(小松氏と)同じ」とし、「国交省も少しずつ変わってきている。今の話はその方向性をもっと出さなくてはとの話と思う」と述べ、「地球上の進化の歴史を見ると、川と陸と海の接するところは進化の大転換の場所となっている。人間、生物、環境にとって大事。この方向性でやっていきたい」と語り、「しっかり関係部局にも伝えたい」と答えた。



斎藤鉄夫大臣(左)と小松代表理事;国土交通省大臣室にて 2022年12月14日


カワシマのホームページへ戻る