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日本人とは何か

第105回 日本国憲法の改正を考える(その2)

一般社団法人生態系総合研究所
代表理事 小松正之
2022年9月16日

日本国憲法に影響を与えた外国憲法

日本国憲法は、明治憲法とマッカーサーとGHQが参考とした米国憲法と英議院内閣制と国際連合憲章、朝鮮戦争をはじめ冷戦が背景にある。

大日本帝国憲法が基としたプロセイン憲法は、フランス革命と米独立宣言と米国憲法の影響を受けた。


大日本帝国憲法;臣民の人権は制約

伊藤博文がプロセイン憲法を手本とした際、西洋社会にはキリスト教という思想的な信条の支柱があったが日本にはないと判断し、天皇を神格化し天皇に対する聖俗の権力を集中させた。当時の明治政府は官僚のご都合主義であったと板垣退助らが民選議員設立建白書で述べた。しかし伊藤らはこれを無視し、広く意見を問うことなく大日本帝国憲法を定めた。板垣退助、大隈重信ら自由・民主主義者は、政府から排除され大日本帝国憲法が定められた。

万世一系の天皇(第1条)は国家元首にして統治権を総攬(第4条)し、立法権(第5条)と行政権(第9条)もあり、陸海軍を統帥した(第11条)。

日本人は臣民(第18条他)であり、天皇大権に服し天皇に統治される民衆である。臣民の人権は制約され環境権などは到底なかった。


田中正造と足尾銅山鉱毒事件

田中正造は、1880年(明治23年)に足尾鉱毒事件が発生すると帝国議会で演説し、鉱毒被害を取り上げ政府に質問書を提出した。明治34年12月に天皇に直訴した。天皇に対し英国王のように民衆に寄り添うべき義務ありと主張した。渡良瀬川に銅精錬の鉱毒が流れ、漁業農業被害が出て付近の山林も燃料用で丸裸になった。日本の公害問題第1号であった。別子銅山の新居浜での大気汚染や日立銅山の排水と大気汚染の問題もあった。



1895年頃の足尾銅山 資料:Wikipedia


日本国憲法と基本的人権

戦後は日本国憲法第3章「国民の権利及び義務」として、基本的人権は侵すことのできない永久の権利として現在と将来の国民にあたえられる(第11条)。「国民は、公共の福祉のためにこれを利用する責任を有する(第12条)」。公共の福祉は第13条にも規定される。

日本も本州製紙江戸川工場事件を契機に1958年(昭和33年)に水質保全法と工場排出法が制定された。その後、公害対策基本法(1967年法律;1993年に廃止)と環境基本法(1993年法律)が成立した。


環境の保護に関するEU基本法、独基本法、仏第5共和政憲法

EU法やドイツ憲法(基本法)は環境保護が明確である。米国では憲法に社会権、基本的人権に関する条文規定はないが、憲法が設置した最高裁判所が審議と判決を通じて、米政府の環境法(1970年/1982年修正国家環境政策法)と環境政策と政府支出事業を常に監視し修正を求める。

EUが環境保護を基本条約(憲法)に入れて中心政策とするのは、1972年スウェーデンのストックホルムで開催された人間環境会議で人間環境宣言が出されてからである。その後、EUでは1987年に発効した欧州の単一議定書でEEC条約の中に3か条が追加された。それらは、①環境の質の保全、保護及び改善②人間の健康の保護③「天然資源の慎重、かつ合理的利用」などを定めている。

ドイツ憲法(基本法)第20条a項は「国は将来の世代に対する責任からも憲法秩序の枠内で、立法により、法律および法に基づく執行権及び司法により、自然的な生活基盤と動物を保護する。」と定める。仏憲法(2004年改正)は「健康を尊重する均衡の取れた環境の中で生存する権利」と国民の義務と責任原則と予防原則を定める。


国全体と環境政策の方向づけ

日本では、産業振興のような政府政策でもエネルギー分野にみられるように環境保護と産業振興は対立する。近年では世界的な持続的開発目標(SDGs)や地球温暖化対策の動きがあり、2050年までに温暖化ガスの排出をゼロとする目標が掲げられ、菅政権でその達成を約束しているが、国会決議であり法的拘束力はない。



IPCC報告書の地球気温予測 全国地球温暖化防止活動推進センターが図作成


また環境基本法では、環境行政の域を出ない。日本国憲法の改正をもって環境保護に関する国全体の方向づけが必要な時期に来たのではないか(続く)。


[参考文献]
講談社学術文庫「新装版日本国憲法」(講談社)2013年8月
中西優美子「法学叢書EU法」(新生社)2016年2月
新井誠、上田健助 大河内美紀、山田哲史編「世界の憲法・日本の憲法 比較憲法入門」(株式会社有斐閣)2022年6月
畑中章宏「忘れられた日本憲法」(亜紀書房)2022年7月


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