火災保険 自動車保険 傷害保険 農林水産省の皆様へ 茨城県庁の皆様へ 法人のお客様 お問い合わせ

日本人とは何か

第103回 原発の汚染処理水と海洋生態系

一般社団法人生態系総合研究所
代表理事 小松正之
2022年7月21日

海洋生態系を破壊する原発汚染水

福島第一原発放射性汚染水の海洋放出の決定から1年を経た2022年4月5日に経済産業省の萩生田光一大臣は、トリチウムやストロンチウムなど汚染処理水の海洋放出方針に対するJF全漁連の要望5項目に対する回答をしました。その内容は(1)「風評被害」に対して政府が全責任を持って対応する、(2)福島や近隣被災県をはじめ全国の漁業者が将来にわたり安心して漁業が継続できるよう超大型資金を創設する―などです。


希釈後のトリチウム1,500ベクレル 事故前濃度の100万倍

風評被害は不確実な情報と説明責任が十分に果たされてない時に生じます。日本政府は、現在の福島第一原発の廃炉のための進捗状況と地下水と河川水がもたらす汚染水の今後のコントロールができるかどうかについて、説明をしているのであろうか。

また、福島沖の魚介類は福島第一原発事故の前は数ベクレル程度であったことは説明されません。しかし、魚介類を含む一般食品の放射性物質基準値は100ベクレル以下と説明されます。そもそもこの基準値は国民の多くは高すぎると思っています。また、福島沖の海水は数ミリベクレル(水産総合研究センター編「福島第一原発事故による海と魚の放射能汚染」60ページ)でした。

更に放出する海水希釈後のトリチウムの濃度は1,500ベクレルで、原発事故前の海水濃度の100万倍にもなります。しかも、現在タンク内にある汚染水の濃度は38万ベクレルです。

放出は廃炉が完結するまで30~40年間も続きます。誰が今後40年間の汚染水のコントロールの責任を持つのでしょうか。経済産業大臣、経済産業省の担当者、そして東京電力の役員も2~3年で交代します。誰が真剣に本件に責任を持つのでしょうか。その間に事故や操作ミスが起きたらどうするのでしょうか。1990年以降でも美浜発電所2号機事故(1991年)、もんじゅナトリウム事故(1995年)、動燃東海事業所火災爆発事故(1997年)と東海村JOC臨界事故(1999年)他がありました。


原発出力増で福島沿岸定置網漁業消滅

福島県の沿岸に原子力発電所が設置された1970年代以降、原発の出力が増大するにつれて、定置網漁業の漁獲量が約9,000トンからゼロになりました(下図)。これら減少の原因の相当部分が原発の出力増に関係している可能性があります。一方、原発から離れた各県の定置網漁獲量は宮城県では20,130トン(1976年)から43,023トン(2020年)と倍増(図参照)、岩手県は29,730トン(1976年)が32,324トン(2020年)と約10%増、千葉県は5,351トン(1976年)から7,466トン(2020)です(農林水産省「漁業養殖業生産統計年報」)。同様の関係は原発が多数ある福井県の顕著な漁獲量減少と原発がない富山県の漁獲量漸減にも当てはまります。最近の予防原則の解釈によれば、その立証責任は原因者側にあるとされます。


福島県の定置網漁業漁獲推移と原子力発電出力推移




宮城県の定置網漁業漁獲推移と福島原子力発電出力推移


基金は資源の回復目的に

萩生田大臣が回答した超大型資金は、目的使途は単なる漁業者らへのお金の配分です。短期的な視点での漁業・水産加工業と流通業などの営業の損失補償では福島の海と漁業の将来はありません。


海は掃きだめではなく、食糧生産の現場

原子力発電所では通常、280℃に熱せられた原子炉内を海水で冷却し、温排水を海洋に放出します。海水より7~10℃高い温排水を海中に放出すると、ウイルスやバクテリア、プランクトンとネクトンというミネラルなどの無生物を生物に変換する微生物の多様性が失われ、海洋生態系に悪影響を与えかねません。海は掃きだめではなく、貴重な食糧生産の場という事を忘れてはなりません。


ウクライナ戦争の日ロ対立でロシアのITLOS提訴高まる

国連海洋法は海洋汚染の防止を目的に掲げています。その国連海洋法の趣旨と条項(第207条;陸にある発生源からの汚染の防止)とロンドン・ダンピング条約の趣旨にも日本の決定は合致しません。

海洋投棄に不満がある国は国際海洋法裁判所(ITLOS)への提訴ができます。海洋法の第15部「紛争解決」に照らし、第290条で暫定措置を要求できます。もしITLOSが訴訟国の暫定措置を認めた場合、日本は海洋への放出が不可能になります。今、ロシアや中国が提訴する可能性が、ウクライナ戦争をめぐる日ロの対立で高まったと言えます。日本に親近感を持つ太平洋諸国も海洋投棄に事実上反対です。


カワシマのホームページへ戻る