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日本人とは何か

第34回 漁業権とは何か

公益財団法人東京財団
上席研究員
小松正之
2017年11月7日

「批判の矛先は誰に」

11月5日付日本経済新聞の社説に「農漁業改革の手を緩めるな」との社説が掲載された。「漁業権制度を抜本的に見直し新規参入や経営の大規模化をしやすくするべきだ。」と主張する。ところでこれに先行して経済界のシンクタンク日本経済協議会が「第二次水産業改革委員会」を本年9月に立ち上げた。

「2007年の第1次委員会」では、「水産資源は国民共有の財産」との主張を展開し、国民目線での沿岸漁業と養殖業への地元産業や企業の参入を促したところ、漁業者の全国団体である「全国漁業協同組合連合会」(略称「全漁連」)は、企業が土足で漁業者の家に入り組むようなものと反発し、魚は自分たちのものであるかの議論を展開し、その後も漁業資源(魚)の乱獲を継続している。567万トン(2007年)の漁獲量が136万トンも減少し431万トンとなり、今年に入り、サケ、クロマグロ、イカ、ホッケとサンマも大幅に減少して、さらに下降基調である。

政府も内閣府に規制改革推進会議水産ワーキング・グループを設置したが、その真剣さが足りない。漁業を国民目線でしっかり見ていくことが今後は重要である。一時は世界を相手に国際漁業交渉で一世を風靡した水産庁も今は、捕鯨、クロマグロと国内の漁業管理でもすべて後手に回り、打つ手がかえって漁業を劣化・衰退させ、最近は主要紙や週刊誌でも批判の矛先が向く。


旧態漁業法から解説し海外との比較

漁業の根本法は漁業法であり明治34年(1901年)制定されて以来、漁場と漁業間すなわち「縄張り」争いの紛争解決と調整の目的は基本的に変わらない。漁場すなわち「縄張り」で漁業する権利を「漁業権」という。だから、海は漁業者のものであると彼らは考え、地元の企業もやる気満々の若者も入ってくるのを拒む体質がある。

漁業権を理解するには、江戸時代以来の漁業の慣行と明治年間に制定された明治漁業法の理解が必要となる。漁業法の思想の原点にたどり着きながら解説を試みた。そして現代の漁業制度と米、加、ノルウェーとアイスランドなどの外国との比較で論じた。その本が11月18日に発売される「実例でわかる漁業法と漁業権の課題」(成山堂)である。本書のような解説と分析内容を伴った漁業法制度の解説書は日本初である。

私は水産庁に30年余にわたり奉職したが「漁業権とは」何か、本当に難しい。当座の技術的な解説本が多く出回っているがその本のみで理解せよというのは到底無理な話で、行政官、政治家、科学者と漁業者の多くの人が、結局漁業法の法思想と歴史的な流れを理解できずにいる。

無味乾燥な条文は頭に入り込まないのである。

だから、平板な漁業法の漁業権の規定をわかりやすく解説することに心血を注いできた。法の思想と漁業権の思想とその成り立ち、どうして漁業権というのかに格闘して取り組み、歴史とその立法と改正の作業に携わった人の立場を振り返り、大所高所から解説し、その技術論まで踏み込み、どうしてそのような構成と書きぶりになったかを解説した。外国の制度との比較も満載で、それらの比較をもって読み解けば、さらに理解が促進する。


国民の漁業法制度の理解が出発点

日本の漁業法制度が、江戸時代の因習を引きずったままで、現在においても一向に修正ができない。世界は漁業の仕組みを大きく変えて、改革を果たし儲かるシステムを導入したが、日本はあいも変わらず、旧態依然の制度にしがみついて、漁業を暗黒の世界にとどめおいて、資源が悪化し経営が成り立たない状況がさらに加速化している。それに対して、日本の漁業制度の根本的な問題点を把握し理解することが問題解決の出発点である。

国民も消費者も魚がさっぱり取れない現状が中国など外国のせいではなく、むしろ旧態依然とした漁業権という漁業者の縄張り意識を支える漁業制度の為だと知るべきである。漁業先進国で採用されてきた科学的な根拠に基づく魚の管理を放棄し、先送りしてきた政府の責任は、大きいのである。



一般読者にもわかりやすい漁業権の小松・有薗共著書 2017年11月


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