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日本人とは何か

第33回 ニュージーランドと森・川・海

公益財団法人東京財団
上席研究員
小松正之
2017年10月26日

日本の生態系の破壊

日本のシロサケの2016年の漁業生産が3分の1に減少した。サケは卵の粒が小さく、その数も減少し、孵化率も大きく下がった。水の量が、大雨の時には多いが、普段は異常に少なくなった。栄養面でも、良好な土砂(セディメント)も少なくなった。

2017年に入り北海道ではサケが昨年に比べて60%しか戻ってきていない。陸上と海洋生態系が樹木の伐採、埋め立て、土地の嵩上げ、森林からの土砂石の砕石で大きく変わった。

陸前高田市では防波堤が作られて湿地帯や自然砂浜を奪い、潟湖である古川沼もコンクリート建設で固められてしまった。自然生態系保全の観点からは見る影もない。コンクリ―トで固める工事で、誰が一体利益を得るのであろうか。地方の人々や住民の多くは、これによって利益を受けていないし、第1次産業から見ればこれは生産力を阻害してマイナスである。


ニュージーランドの森川海の政策

8月にNZを訪問し、森川海と水の管理と生態系の保護について学んだ。

第1次産業省によればNZでも日本と本質的には同じ問題を抱える。NZへの初期入植者たちは、森林を伐採して畑や草地を作り、農地や羊の放牧地にした。そこで土壌の流出が起こった。

その後、羊放牧数を大幅に減らし、価格が有利な酪農を目的とした牛放牧を行った。そして牧草の育成用肥料を蒔いた場所で栄養分が過剰になり、牛の排泄物で窒素分が更に過剰になり、富栄養化が起きている。これらの具体的な規制策は、地方自治体(Regional Council)が講じる。国は、農業・酪農の基本方針を定めるのみである。


水資源管理

環境省によればNZでは、水源には所有権が設定されていず、NZ水の大量な海外への販売会社が出現し大きな問題である。取水制限や取水量削減をせざる得ない。

牛放牧による水汚染も大きな問題であり、農業や牧羊草地の肥料の制限については、肥料や窒素流入量を地下水のボーリング調査で測定して科学的情報を入手し、それに基づき肥料の削減量を決定している。

取水量決定や肥料・飼育頭数削減も、地方自治体の決定で定まる仕組みである。


水資源管理の実情への批判

ダニーデン市にあるNZ最古のオタゴ大学準教授によれば、NZの水資源管理に責任がある地方自治体がしっかりしているわけではない。科学的根拠ついてのデータが十分でもない。大河川にはデータがあり、最低(最小)水量も決められているが、小規模河川については研究らしいものもない。環境省の2017年環境ステートメントは単なるペーパーである。規制のモニターもない。

地方自治体では、科学者の提言に基づいて、取水量の制限や最低河川水量が提言されるが、NZでは全員参加型で水量規制や排水基準を決定する仕組みのため、酪農家は積極的に発言し、規制を緩やかにしようとする。河川へ排出される窒素分の削減のための植林などが決定されても、酪農家は守らない。植林のためのコストは多額にわたるし政府が補助金を出して支援することはない。政策も実行されないことがほとんどである。農民の声が大きいので、結局はただでさえ薄弱な科学的根拠であり、それも軽視されて実に心許ない政策となっている。


最重要;情報開示と住民の全員参加

歴史的に見れば、NZは80%以上の国土を森林が占めていた。それを伐採し、羊を飼い、そして最近では羊の放牧に代えて、収入の大きい酪農を導入している。牛の空気中へのゲップも温室効果ガス排出で、地球温暖化の原因となっている。

NZはそれでも科学的根拠に基づき、情報公開をしながら、全員参加の水資源管理を行っている。片や日本は県庁などの行政庁が国民の税金で、建設や埋め立てをおこなっていて、当然開示義務があるにもかかわらず、国民、市民と住民の意見も聞かず、情報も開示しない。最近の選挙を見ても政党も政策を開示しない。民主国家の根本的な問題にも行きつく。NZに学びたい。



NZ北島のワイタンギ附近の砂浜;堤防がない 2017年7月著者撮影


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