地震保険を語る

(第十一回)保険の持つ「公益性」の力

 地震保険は、東日本大震災によって初めて多くの国民に価値を認めてもらった。阪神淡路大震災で783億円の保険金支払いに終わったのは、当時、この保険の普及率が低かったのが一番の理由である。東日本大震災は被害がより甚大であり、宮城沖地震などの経験から多くの人々が地震保険に加入していた。
 そして、地震発生1年後の時点でみると、件数76万4938件、保険金1兆2185億円が被災者に支払われた。1兆2千億円を超える金額が、地震発生後すみやかに支払われ、世の中から高く評価された背景には何があったのだろうか。
 保険の業界誌である月刊ライト2011年9月号に、保険会社社員と保険代理店による「現地のコメント」が掲載されている。その中からいくつかを拾おう。
 「津波に流されながらも残った泥だらけの自社看板を見つけ、『私たちはここに残る。お客様のためにも、ここでやらなければ』と心に誓った」(代理店)
 「保険会社には、安心と安全をお届けするという役割があるが、今回は本当にそうだと実感した。担当している代理店からは『銀行のATMの前で地震保険金を受け取った契約者が号泣し、感謝をしてくれた』という話を聞いている」(保険会社)
 「直接お客様とお会いして保険金のお支払い手続きをすることで、『保険の持っている力』を改めて感じることができました」(保険会社)
 保険の原点には、「一人は万人のために、万人は一人のために」というお互いの助け合いの精神が横たわっている。堅く言えば、保険の持つ「公益性」である。
 東日本大震災の地震保険金支払いの仕事に携わる中で、多くの保険会社社員や代理店が、保険が本来持っている「公益性」を改めて実感し、これを自らの仕事の誇りに感じながら、目の前にある困難な仕事に向かっていったのではないだろうか。そしてそれこそが、東日本大震災における保険業界への高い評価につながったのではないかと感じている。 (文責個人)

日本損害保険協会 常務理事 栗山泰史