地震保険を語る

(第三回)自分で自分を守ること


 東日本大震災によって、「津波てんでんこ」という言葉が知られるようになった。津波の際には、ともかく各自がてんでに逃げることが何よりも大切という意味だ。 
 この言葉は、私自身の解釈だが、これに従って行動した人が、ただ一人助かった場合、「それでよかったんだよ、それしかなかったんだよ」と、その人が自分を責めないよう救いの手を差し伸べる言葉でもあるように思えてならない。地震の場合、防災はなく減災しかないというが、この言葉には、極限的な状態の中での究極の減災が込められているのではないだろうか。果てしなく重く、深い言葉である。
 ところで、地震において家を失った場合、人はどうすればよいのであろう。国や自治体が助けるべきだという考え方もあるだろう。しかし、私有財産制度の下では「自分で自分を守る」という「自助」が原則としての考え方だ。自由な意思の下で、持ち家の人がいる一方で借家住まいの人もいる。国が助ける場合は税金を使うから、持ち家の人にだけ税金が使われるという不公平は許されないのである。
 したがって、地震への備えの第一歩は、自分で自分を守るために地震保険を付けることである。しかし、地震保険以外には、まったく助けがないかというとそうではない。被災者を助ける仕組みには、「自助」としての地震保険以外に、「公助」として被災者生活再建支援法による救済がある。これは、阪神淡路大震災において、家を失い悲惨な目にあっている被災者が多数出る中、1998年にできた制度で、家を失った人に最高300万円の補償を行うことになっている。原則は「自助」であっても、国は被災者に対し、何もしないまま放置するわけにはいかないのである。
 そして「自助」「公助」に加えて「共助」がある。東日本大震災では日本赤十字その他に3573億円(2012.5.25付厚労省発表)もの義援金が寄せられている。これは家の被害とは関係なく配分されるが、家を失った人にとっては、「自助」、「公助」とともに「共助」も大きな支えになることは確実である。(文責個人)

日本損害保険協会 常務理事 栗山泰史